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30/09/2013

09/30/2013

 

そして、また、ロンドンで暮らしはじめた。

 

 

新しい部屋は、一昨年暮らしていたアパートの別の部屋。ロンドンのアパートは部屋によって間取りがまったく違うのだけれど(内装も大家さんがどれだけ手をかけているかによって全然違ってくる)、スウェーデンへ行っている間トランクルームで寝かせていた荷物があってあまり新しいものを買う必要がなかったのと、やっぱりアパート自体が住み慣れているので、越してきて一週間もしないうちにするすると馴染んでしまった。新しい場所に対して感じるぱりっとした緊張感のようなものは、最初からなかったような気さえする。この3年3ヶ月で5つの部屋を渡り歩いてすっかり引っ越し慣れしてしまったこともあるけれど、うーん、それもどうなんだ。

 

今度の部屋はベッドがロフトなので、一昨年ベッドカバーにしていた布はソファにかけることにした(ちなみにロンドンの賃貸アパートは家具つきが一般的なのでこのソファも最初から置いてあった)。新しく買い足したのは、スピーカー、デスクの上に置くレターボックス、ストックホルムで買ってきたポスターを飾る額。ルンドの部屋からもキャンドルスタンドや花瓶など、いくつか大切なものを持ってきた。もともとあった荷物に、少しだけスウェーデンの色。

 

底冷えする部屋、弱々しいシャワー。戻ってきてから2週間、降りつづいた雨。火災報知器の音、工事の音、どこから聴こえてくるんだかよくわからないサイレンの音。なかなか届かない荷物に、理不尽なメール。ああロンドンだ、と思う。ぼやいてばかりいるけれど、ここが好きだなあ、と、思う。

 

 

進級がかかったプレゼンがようやく終わった26日、日本から友達がやってきた。遅めの夏休みをとって、遊びに、わたしに会いに、来てくれたのだった。

 

中3日、体力の限界に挑戦してほんとうに色々なところへでかけていった。セント・ポール大聖堂やウエストミンスター、美術館に博物館、ウィンザー城。素敵なホテルでアフタヌーンティーをしたり、レ・ミゼラブルを観に行ったりもした。過ぎてしまった今になってみると、夢のような日々。滅多に行かないところへあちこち行ったので新鮮だったのもあるけれど、こんな風に思う理由はもちろんそれだけじゃない。チャーミングな彼女が一緒にいるだけで、見慣れた風景も行き慣れたお店も自分の部屋さえも、これでもかってくらいキラキラしていた。惚気かって感じだけれど、本当にそうなんだから仕方がない。

 

あらゆる方向からどんどん楽しい時間が編まれていくような、3日だった。

 

 

 

厳しい2年間を過ごした町。これから、さらに1年を過ごす町。もともとここが好きで移り住んだわけじゃないのに、ほかのどこに対しても感じたことがないようなこの強烈な愛着はいったいどこから来たんだろう。あまり沢山特別なものを持ちたくないとつねづね思っているけれど、やっぱりロンドンは特別、とても、とてもとても特別。

 

不安定ではあるけれど、わたしの場所は今、ここ以外にない。住居も、所属も、ここにしかない。長い月日を貫いている思いを受け止めてわたしに新しい時間をくれたのは、今の大学で、この町だった。

 

だからやっぱり、いまのわたしが帰ることができる場所のひとつはここなのかもしれない、と、思うのだ。

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06/09/2013

09/5/2013

 

ロンドンへ戻る日がいよいよ近づいている。

 

2ヶ月におよぶ日本滞在、色々なことがあった。当初やろうと思っていたことは半分もできなかったけれど、帰国のたびに会っている人たちの多くには、今回も会えた。スウェーデン語の先生を幸運にもつかまえたことや、イヤープロジェクトを積み残していたこともあって(これはまだ終わっていない)、勉強もした。京大前の進々堂には随分お世話になった気がする。買い物へ行ったし、テレビもそれなりに見た。夜にはしょっちゅう散歩へでかけた。ぐるりと大回りして、帰りに閉店間際の本屋に寄る。それが楽しみだった。

 

長崎と、それから東京へも行った。大学時代からの友人たちとは、レンタカーを借りて那須まで足をのばしたりもした。動物たちと戯れて、美味しいものを食べて、よく笑った。彼らと会ったあとに振り返るといつも、可笑しかったなあ、でも具体的になにがあんなに可笑しかったのかなあと思うんだけれど、そんな感じでもう十年が過ぎている。

 

 

リビングの机の上には、その日郵便で届いたわたしの三冊の本が置かれていた。ヴォルター・グロピウス『建築はどうあるべきか』、ポール・オースター『ムーン・パレス』、サマセット・モーム『サミング・アップ』。母は帰ってきたわたしに、その本をさしながら「人生、楽しいこともたくさんあるわよね」と言った。目に涙をためて。

 

不穏にとぐろを巻く灰色の感情を残して、日本での夏が去っていこうとしている。

 

 

 

幸か不幸か、わたしたちの実体は、泡のように消えてなくなったりはしない。天地がひっくり返るような思いをしても、そうして負ったちりちりと焼けるようななにかを庇っても、明日はある、つづいていく、とにかく今のところは。つづいていくことを、祈っている。

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