01/04/2013

by lumi on 04/2/2013

 

 

ふたつの試験を終え、羽をのばしに飛んできたグダニスクは、ルンドよりも寒かった。

 

昨夜から降りはじめた雪は、まだ止む気配がない。

 

 

スウェーデンとポーランドは近い。わたしが住んでいるルンドの隣町マルメにある空港からポーランド北端のグダニスクまでは、飛行機で45分。チケットは2千円だった。バルト海を挟んでいるので隣国という感じはしないけれど、実は2都市は400kmほどしか離れていない。離陸してシートベルトのサインが消えてしばらくしたら、もう着陸。日常と旅行の境界を越えられないまま、国境を越えた。

 

空港から210番の路線バスに乗り、中央駅を目指す。車窓からはくすんだベージュの家々と茶色の森、アスファルトと薄く積もった雪、それからどんよりとした空が見えた。彩度もコントラストも低い風景。おそろしく気軽に飛んできてしまったので、スウェーデンとのギャップがのみこめない。ときどき現れる鮮やかな看板広告は別世界から来たものみたいで、通り過ぎてもしばらく目の奥に残った。

 

 

 

中央駅前に着いたのは午後7時。イースターサンデーなので、店はほとんど開いていない。駅の中にあるマクドナルドで夕食を買って、宿へ向かった。

 

 

泊まっている部屋はとても快適だけれど、屋根裏なので窓は小さくて、向かいの家の頭しか見えない。 だから朝、外に出て積もっている雪を見たときにはとにかく驚いた。前夜とはまったく違う風景に面食らって、現在進行形で降り積もる雪をしばらくただ眺めていた。

 

まずは中央駅へ行き、明日のワルシャワへの切符を買う。朝7時7分グダニスク発、13時26分ワルシャワ着の電車の2等席。窓口の女の人と筆談をして無事指定席の切符を手に入れ、外に出ると、雪は勢いを増していた。

 

 

 

運河を目指して旧市街を歩いているあいだにも、雪はどんどん強くなっていった。髪にもストールにも睫にも雪がまとわりついて、溶けきらないうちに重なっていく。足元もあまりよくないので、とりあえず運河沿いのカフェで体勢を立て直すことにした。イースターマンデーで営業しているカフェも少なかったので手近なところに入ったのだけど、注文したペンネとカフェラテはどちらも本当に美味しくて、それだけでほっこり救われた。

 

 

 

白く霞む運河。実際は写真よりずっと霞んでたよ笑。風もそれなりにあったので、橋のうえでは目を開けているのもつらかった!カメラをストールで隠しながら、なんとかかんとか撮影。

 

 

 

暖かいカフェを出て、雪に目を細めながら歩いていたら、教会にしては随分メロディアスな鐘が聞こえてきた。鳴りつづけているので音を目指して歩いていく。鐘は、目抜き通りにある旧市庁舎のものだった。鐘の音と、立ち話をしている人の声と、鳩の羽の音。しんしんと雪が降るイースターマンデーの静かな町の、ささやかなざわめき。

 

こういう瞬間のために、わたしはいちおう定住している場所を離れてひとりで出かけてゆくのだ、と思う。頭がからっぽになって、涙で視界がにじむ。いつも数えきれないほどある「見たいもの」を、こういう思いがけない贈りもののような一瞬は、かるがると超えていく。

 

 

 

背の高い建物が旧市庁舎。無彩色や落ち着いた色の建物が多いグダニスクだけれど、目抜き通りはやっぱり華やかだ。

 

旧市庁舎は、いまは歴史博物館になっていた。グダニスクには、ポメレリア、ドイツ騎士団、ハンザ同盟、プロシア連合(後にポーランド王国の自治都市になった)、ロシア、プロイセン、国際連盟保護下の自由都市、ナチスの支配下、そしてまたポーランドとしての、めまぐるしい歴史がある(あまりにもめまぐるしいので、なにか書き逃しているかもしれない)。この旧市庁舎の着工は1379年、この町がハンザ同盟に正式加盟したばかりの頃で、尖塔が完成して今みたいな姿になったのは自治都市として特権を持っていた黄金時代、16世紀のこと。それから400年後、第二次世界大戦でここは決定的に破壊されてしまった。いまの建物は、そのあと復元されたものらしい。

 

 

 

評議室だった「赤の間」には、16世紀の美しい暖炉が奇跡的に残り、17世紀の絵画が飾られていた。

 

自由を謳歌して、衰退し、周辺国の思惑に翻弄されて、廃墟になり、そして生き返った町を、この市庁舎は知ってる。

 

 

 

雪が止む気配もないので、目抜き通りにあるお店でお茶を飲むことにする。今日2杯目のカフェオレと、りんごのケーキ、両方で12ズウォティ(約350円)。ケーキは量り売り。お姉さんが、どれくらい食べる?と聞いてくれて、器用に切り、お皿にのせてくれた。

 

 

 

自分で言うのも何だけれど、わたしは超の付く晴れ女だと思う。特に2年前にヨーロッパへ来てからはかなりの日数をかけて沢山の国のあちこちの町を巡っていながら、天気がよくなかった記憶がほとんどないのだ。いちにち雨に降られたのは雨季ど真ん中のリスボンへ行ったときと晴れの日が少ないことで有名なベルゲンへ行ったときぐらいなので、そのふたつの町には「雨の町」という強烈な印象があるほど。冬にどこかへ行くこともそれなりにあったけれど、本格的な雪に見舞われたことはいちどもなかった。

 

だからグダニスクはわたしにとって、初めての「雪の町」になった。こうして美しい記憶になるなら、雪もわるくない。

 

 

 

窓マニアなのでグダニスクでもあちこちで窓を撮っていました。

 

 

明日はこの国の首都ワルシャワまで、6時間を超える長旅。ワルシャワは勿論だけれど、大好きな電車で過ごす時間を、とても楽しみにしている。

Comments are closed.