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26/02/2014

02/26/2014

 

På tåget —電車に乗る

 

ぼろぼろになった本を開ける/古い切符がすべり落ちる

ただよう空気の匂い/忘れられた友人のことば/降らないはずの雪が降り/ここにはない教会の鐘が鳴る

二月がここにある/ああいう町では/いつもいつまでも二月なのだ

窓ガラスは薄氷/ビルの森に短い昼がくる/幻想と現実のあいだで/わたしはなにも失くしていない

距離をのみこんで/電車はただ走るだけだ

 

 

課題のために書いたスウェーデン語のものを、日本語に訳した。4年間の授業が終わろうかというこの時期に課題で詩を書かせるというのがなんともいえずうちの大学らしいのだけど、これ、ほんとうに困ってしまった。とにかく!、わたしは創作が苦手だからだ。詩を書いたりしたのは、いったい何年ぶりだろう。

 

だけど、やってみると書く作業は思っていたよりずっと面白かった。というのも、“日本語に訳した”と書いたけれど、正確には下書きの段階でもうスウェーデン語と日本語を行ったり来たりしていたからだ。スウェーデン語でベースを書いて、日本語で味付けして、スウェーデン語に戻って単語や構文を選び直して韻を踏んだりリズムをつけて、それをまた日本語にして表現を選び直して、ということを何度か繰り返した。意識してやったわけじゃなくなんとなくこういう作りかたになったのだけれど、ちょっと新しい景色を見れたし、ふたつの言語が自分のなかで対等じゃないからいいのかな、とも思えた。できあがった詩はそんな大層なものじゃないしやっぱり才能ないなあとも思うけれど笑、それでも母国語には遠いことばをわざわざ使うことの意味がひとつ、増えたような気がしている。だってとても楽しかったから。

 

“幻想と現実のあいだで/わたしはなにも失くしていない”。そうであってほしいと、持てるかぎりの希望を込めて。

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20/02/2014

02/20/2014

 

 

 

海と湿原の狭間に現れた蜃気楼のような町、どこまでも続きそうな湿原を行く白い馬。

 

頭のなかでいまも、鳥の声と、馬の蹄の音、草をかきわける音が響いている。

 

 

 

サント・マリー・ド・ラ・メールは果てしなく明るい、美しい町だった。白い壁と褐色の屋根が並ぶ、フランスにスペインの香りが混ざった町。教会の屋根に上ると、南には真っ青な地中海、北には湿原が家々のむこうに広がっている。

 

 

 

 

 

湿原では飛んでいくフラミンゴの群れ、湖を泳ぐビーバー、草地を駆ける馬、色々なものを見た。もうなかなかできないだろう、貴重な経験。正直「白馬に乗って野生のフラミンゴが鳴く声を聴いた」なんてもはや非現実的ですらある(あらためて口にすると、嘘でしょう、って感じだ)。けれどその一方で、あの場所にはなぜだか日常生活の延長のような、穏やかな空気がひっそりとあった。

 

ただ特別というんじゃない、等身大の体験だった、と、思う。

 

 

 

余すところなく美しい風景が、ただ、そこにあったということ。凪いだ思いを過不足なく表現する言葉を、わたしはまだ持っていない。

 

 

 

わたしを乗せてくれた馬は食いしんぼうなうえ怖がりで、美味しそうな草を見つけては食べ、水たまりを見つけては避け、とどこまでものんびりしていた。こらー、しっかりー、といちいち慌てるわたしを横目に、前を行くガイドのお姉さんは馬の背中のうえで煙草をくゆらせ、潔い煙を吐いていた。

 

美しい場所での、美しい一日だった。

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